私信

一番最初で覚えてるのは、新入生歓迎の集まりでスタジオに入ったとき。俺はたぶんその曲のときは見てるだけだったけど、何の曲だったか覚えてないけど、お前は急にマイクをつかんで歌いだした。曲が終わって誰かが「なんて歌ってたの?」とか訊いたらお前は「いや、適当に」とか答えてた。あきれるというか、おかしかったな。そのあと、ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」で、俺がギター弾いて。あの曲はたまたま前に1人で弾いてたから俺もそこそこ弾けて。それでお前が、次の日だったかな。「いっしょに組もう」って声かけてきたんだ。俺が「ジミヘンが好きだ」って言ったら、食いついてきたな。俺が弾けるわけでもないのに。
お前の家は学校から近くて、俺も学生なりたてで、「学生たるもの云々」とか勘違いしてて、はじめの頃はよくお前の家に入り浸ってたな。なんか、カタチから入る、みたいな、「○○だったら××やっとかなきゃ」みたいなのは、お前と俺で似てた所があったかと今思った。お前も図々しいほうだったけど、俺もあの頃はかなり図々しかったな。でも、お前の機嫌とろうとして、よくビール1本だけ土産に持っていってた。気が利く奴と思われたくて、お前の好きだった「秋味」を1本。お前は「なに14ちゃん?気使ってるの?」とか言ってたな。使ってたんだよ、あれでも。それなりに。
お前の部屋にはもちろんベッドが一つしかなくて、泊まりになるとひとつベッドでお前と寝るんだけど、俺は男同士並んで寝るのがどうにも気持ち悪かったから、「朝起きてお前の顔が目の前にあるのは嫌だ。俺はお前の足のほうに頭向けて寝る」って、互い違いの向きで寝たな。あとでお前は「今まで色んな奴泊めたけど、あんな寝方すんの14ちゃんだけだよ。ちょっとショックだよ」とか言ってた。
そういえばあの頃、ペットボトルか何かのウーロン茶が少し余ってたら、それにまた水道水を足して学校に持ってきてたな。「ウーロン茶1」対「水道水9」くらいの。ホントに貧乏臭かったよアレは。お前は「ちゃんとウーロン茶の味すんだから」なんて言ってたけどな。あれもおかしかったな。
バンドでは、ホントに俺とお前は全然って言っていいほど合わなくて。というか俺のほうがわざとお前のほうに合わせまいとしてたところはあったけど。俺だってお前の好きなものはわかるし、嫌いじゃなかったけど、やっぱり俺は自分が主導権を握ってたかったというか、お前に合わせたら全部お前のものになっちゃう気がしてたんだろ、きっと。全然オトナ気なかったし、全然バンドっぽくなかったけど、なんかあの頃の俺はそれが正しいと思ってたんだよな。今だったら、ひょっとしたら少し違うかもしれないけど。
バンドだけじゃなくて、普段の会話とか振る舞いとか、そういうのも結局そうだったよな。お前はお前で、やりたいことがいっぱいあって、俺は俺で、たいがいお前に反発して。ちょっとまあ、度が過ぎたところがあったのは事実だけど。お互いな。まあ、あのくらいの歳で、なにか自分のものを人に見せたいと思ってる奴だったら、まあ、結構健全な合わなさっつうか合わせなさ、だったと思うよ俺は。お前は、ちょっとどう思ってたかわかんないけど。いや、やっぱり結局バンドやめよう、解散しようって言ったのはお前のほうだったから、ちょっと俺がやり過ぎたのかも知れないな。でもまあ、その後は結果オーライだったじゃんか。
その頃、お前にも俺にも彼女が出来て、そうなりゃ当然女の子とばっかり遊ぶようになって。お前の家で飲んだりってのもぐっと少なくなったな。でも、軽井沢だっけか。女連れで全部で8人で遊びに行ったな。天気が悪かったんだっけ?時間がなかったんだっけ?何してたのかあんまり覚えてないけど、なんかメシを作って食ったな。俺は確か飯を研いで炊いてたよ。電気釜が見つからなかったから、ガスコンロで。
そういや、昨日は、あの頃のお前の彼女も来てたよ。ちょっと痛々しかったのもあって、俺は、声もかけられなかったけど。
別々のバンド組んで、ライブハウスでやるときも、たいがいお前のバンドがトリだったら俺たちがその前。俺たちがトリだったらお前らがその前の出番ってのが多かったな。まあ、ある程度固定メンバーで組んでたのが俺らとお前らだけだったってことなんだけど。でも俺は、お前の後に自分が出るほうが好きだったよ。別に自分がトリでやりたいとかじゃなくて、お前が出た後なら客もあったまってるし、なにより俺のテンションが上がった状態で出れたから。
卒業してからは、まあ働く曜日も時間も違うってのもあったし、ほとんど顔を合わせることもなかったな。年に1度、会うか会わないか、そんな感じだったな。でもたまにお前の仕事の話とか聞くのは、やっぱり面白かったよ。俺みたいなサラリーマンが普通に暮らしてたら、わかんないような世界だもんな。誰にだったか忘れたけど、お前から聞いた話を、俺がそのまま自慢げにしたこともあったよ。俺も結構ミーハーだからな。
去年のフジロック、お前は当日になってふらっとついて来て、それも待ち合わせにだいぶ遅刻して。まあ、お前も仕事だったからしょうがなかったんだろうけど、俺は俺で、学生の頃と一緒。そんなお前にイライラしてて。でも帰りも、お前だけ朝方、俺らが起きる前に東京に戻って。やっぱり相当忙しかったんだな。大変だったんだよな。
結局、アレが最後だったけど、ここ数年の俺とお前の関わりからすれば、結構最近だった気がするし、あの時会えといて良かったんじゃないかと思うよ。あの時はお前のカレーも食ったしな。そりゃ今にして思えば、本当はもっと頻繁に会えてれば、とかも思わないわけじゃないけど、まあそれもな。ちょっと気持ち悪いしな。またこんな、まだこんな、憎まれ口しか叩けないけどな。
とにかく、まあゆっくり休んだらいいんじゃないかと思うよ。さんざん忙しかったんだから。せっかくだからな。
もうこれは、ここで終わりだよ。これ以上ベタだと、後で読んだら俺が赤面するから。でも、俺にしてはキレイにまとめたほうだと思うだろ?お前が好きそうなのに合わせたつもりだよ。気使ってるんだよ、これでも。